誕生日編 * 中篇 By 白文鳥 2001.12.24 |
今日は主星の大貴族、カタルへナ家でクリスマスパーティが催される日でございます。そのお屋敷はそれはそれは大きくて、とても立派な造りございます。まるで聖地の女王様の御住まいのようだと評されているぐらいなので、大体ご想像できるのではないでしょうか。 パーティは大広間と美しい庭園を使って盛大に催されておりました。華やかな音楽も奏でられ、雰囲気を盛り上げております。 招待客はいったい何人いるのか分からないくらいで、そこは着飾った人々で一杯でした。お昼から夕方にかけては子供達中心のパーティで、主役はもちろんカタルへナ家の一人娘ろざりあでございます。 あんじぇがカタルへナ家のお屋敷に到着した時に丁度パーティが始まりました。大きなテーブルに数々のお料理が並び、いい香りが立ち込めておりました。そしてテーブルの中央には真っ白い巨大なクリスマスケーキが飾られておりました。 「うわぁ…これがろざりあがいっていたケーキ…とってもきれい。なんだか、たべちゃったらいけないみたい」 あんじぇは辺りを見回しました。ろざりあにも挨拶したかったし、何よりもおすかー君に会いたかったからです。いつもは幼稚舎の門の前でおすかー君はあんじぇが出てくるのを待っているのですが、今日の帰りは何故だか彼の姿は無く、一緒に帰れなかったのでここでお話を沢山しようと思っていたからです。 あんじぇはたくさんのお客様でごった返す中からまずは、ろざりあの姿を見つけ出しました。ろざりあは沢山のお客様に御挨拶をしておりました。 「ろざりあ様、こちらは○△財閥の会長の御子息、ちゃーりーさんですわ。」とか「○×星の王太子殿下です。」とか、さすがのろざりあですらいっぺんにに覚えきれない程、沢山の少年達を紹介されてうんざりしておりました。この調子でおりますと大好きなお友達とゆっくりおしゃべりが出来るのは、何時になるやら全く判らない様でございます。あと10年したらまたお会い致しましょう、と言ってこの場を立ち去りたいのを笑顔で我慢しておりました。 そこへ待ちに待ったあんじぇの声がかかったのです。 「あんじぇ!わたくしはここにおりますわ!それではみなさま、しつれいいたします」 優雅に礼をしてろざりあはあんじぇの所へと嬉しそうに駆け寄ってきました。 「よかったわ、おきゃくさまがとってもおおくてあんじぇにあえないかとしんぱいしてましてよ。おにわでまいごになるまえにみつけなければっておもってましたの」 「やだぁ、ろざりあったら!」 ろざりあは笑いながらもささっと周囲に視線を走らせます。あんじぇがここにいるという事はすぐ近くにあのプレイボーイがいるはずだからです。ですが今日はまだ現れてはいないようです。 「ろざりあ、メリークリスマス!ごしょうたい、ありがとう。あのね、プレゼントにクッキーつくってきたの。たべてね!」 「まぁ!ありがとう!とってもうれしいわ!」 はっきり言って高価でゴージャスなプレゼントはワケがわからない位いただいているろざりあですが、こんなに心のこもったプレゼントはめったにありません。嬉しくて涙が滲みそうでした。 ところがその後ろざりあの感動を吹き飛ばす言葉が、あんじぇの口から出たのでございます。 「あの、ね?おすかーせんぱいは?きょうはごしょうたいされてないの?」 「え?」 ろざりあはとてもびっくりいたしました。大事なあんじぇが、あのプレイボーイを気にかけるなんて!とてもいけない事のように思えました。まるでろざりあの頭上では大規模なブリザードが吹き荒れているようですね。 そんなブリザードの最中、おりびえ君とりゅみえーる君が現れました。 「はぁい♪ろざりあ、今日はごしょうたいアリガト☆」 「ごしょうたい、ありがとうございます。とてもすばらしいですね」 「まぁ、ようこそ、おふたりとも。たのしんでくださいませね」 ろざりあはますます警戒を強めました。りゅみえーる君はともかくおりびえ君は、おすかー君のかなり親しい友人だからでございます。これは間違いなく彼が現れるという前兆ですね。 ところがろざりあが身構えてから10秒たっても1分たっても、そして3分たとうとしたのに一向におすかー君が現れる気配がありません。だいたいあんじぇがいたらすかさず、まるでヒーロー物の悪役のごとく現れるのが最近のおすかー君でございますから。確かに変ですね。 「?」 ろざりあの怪訝そうな顔におりびえ君は気が付きました。 「どうしたのかな?」 「きょうはおすかーせんぱいは、おそいのですね」 「あ!わたしもおあいしたくって、まってるんです!」 おりびえ君とりゅみえーる君は顔を見合わせました。 「あいつなら今日はここへは来ないとおもうけど?」 「「えっ!?」」 あんじぇはあわてておりびえ君に尋ねました。 「どうしてですか?」 「今日はあいつはたんじょうびだから、自分ちでパーティじゃないのかな。」 それを聞いてあんじぇはとっても驚きました。 「おすかーせんぱい…」 「ヴィクトール!」 ろざりあは護衛の者を呼びました。 「きょう、『ほのおのいちぞく』のかたは、いらしてないのかしら?」 呼ばれて現れた厳ついボディガードはポケットから小型の端末を出して確認をいたしました。全く便利な世の中でございますね。 「ろざりあ様?本日『炎一族』様からは丁重なお断りがきておりますが。なんでも族長のご子息のお誕生日とかで、そのパーティがすでに予定されているとのことです。夜の部には別の大人の方が出席なさるようです」 「おすかーせんぱい…おたんじょうび、わたしにおしえてくれなかった…」 あんじぇの打ちひしがれた姿を見てろざりあも悲しくなってしまいました。 「きょう、ここであえるかなって…おもってたから…おすかーせんぱいにもクッキーつくってもってきたの。」 その姿を見ているとなんだかとっても手助けをしたくなってしまうろざりあでした。まったくもってとんでもない素行不良のプレイボーイでもあんじぇがいいといえば、まあペットの一種だと思えばろざりあは許せる気分でした。もしもペットの分際で主人に仇名す振る舞いをした場合は、きついお仕置きを与えればよろしいのですから。そしてそれはわたくしの役目だわと心に誓ったろざりあでした。 結局ろざりあはあんじぇがうれしいことが一番うれしいのです。 「ね、ねえ?あんじぇはおすかーせんぱいのおたんじょうびは知らなかったの?」 あんじぇはしばらく考えてから言いました。 「うん…あのね、もうすぐたんじょうびだよって。それだけしか…」 ろざりあは考えました。この親友にメロキューなおすかー君がどうしてあんじぇに誕生日とパーティの事を教えなかったのだろうと。 「ヘンですわね。ほかのかたはともかくあのおすかーせんぱいがあんじぇをおたんじょうびのパーティによばないなんて…」 「そう?わたしはさ、なんとなくわかる気がするなぁ」 おりびえ君は自分のご自慢の長いカラフルな金髪を指で遊びながら言いました。 「じつはさ、おすかーに今日ここによばれてるか聞かれたんだ。行くよって答えたら、そうかって、そのあと何も言わなかったんだよね。わかっていて自分がさそったらわたしがこまるだろうって思ったんだろう。」 「パーティがかさなって…わたくしが先にさそっていたから?でもあのおすかーせんぱいならごういんにじぶんのほうにさそうのではなくて?」 「う〜ん、今までのあいつならそうかもしれないけど、そんなことしたらあんじぇちゃんがとてもこまってなやむだろうとおもったんだろうね」 ね?と顔をのぞき込まれてあんじぇは考えました。もしおすかー君に誕生日パーティに誘われたら…。大事なお友達のろざりあのパーティにも行きたい。でもおすかー君のパーティにも行きたい。 「とってもまよってしまいます…」 「ほ〜らね!あいつがさ、そんなことできると思う?」 きゃはは☆と笑うおりびえ君にろざりあもりゅみえーる君も納得してしまいました。 あんじぇに対してどう考えても本気すぎて強気に出られない、おすかー君。考え様によっちゃなんともはや情けないような気がしました。でも、それもなんだか彼の愛すべき一面の様な気がいたしますね。 「あんじぇ…ね?あなたおすかーせんぱいがすき?」 「んー…と、あのね、とってもきれいだなっておもうの。だからいつもみていたいなって…なんかへんかなあ?」 ろざりあはちょっとため息をついてにっこりと微笑みました。 「あんじぇ、こちらにいらして。」 ろざりあは広間の中央に飾られてある大きくて立派なクリスマスツリーの所へあんじぇを連れて行きました。見上げるばかりの高さのツリーに綺麗な飾りが沢山ぶら下がっておりました。ろざりあはそこから飾りを二つ手に取りました。このツリーには招待客にろざりあから贈られるプレゼントが飾りとして付けてあったのでございます。 「あんじぇ、メリークリスマス!」 ちょっと照れながら、ろざりあはあんじぇにそれを手渡しました。それは金色の星に小さい鈴が付いたブローチでございました。赤いリボンのついたそれはとてもいい音で鳴ります。 「わたくしのとおそろいなの。わたくしのはむらさき色のリボンなの…。ほら、ね?」 チリリン…澄んだ金属の音が響きます。 「あんじぇ、わたくしはこれからたくさんのかたとおはなししなくてはなりませんの。とてもいそがしくて…あんじぇとおはなしができませんの。もうしわけないけれど、おすかーせんぱいのおたんじょうびのおいわいもいかれないの。わたくしのぶんまでおいわいしてくださるとうれしいわ。」 ろざりあはもう一つツリーから飾りを取りました。 「これね、かざっているときからあんじぇににてるっておもってたのよ。これをおすかーせんぱいにさしあげて」 それは小さな磁器で出来た天使の飾りでした。確かに金色の髪、目にはエメラルドが埋め込まれていて、可愛い顔はあんじぇに似ておりました。 「ろざりあ…」 「ばしゃをよういさせますわね」 ろざりあはまたヴィクトールを呼んでこう言いました。 「わたくしのだいじなおともだちをおすかーせんぱいのおうちまであんないしてあげてちょうだい。いそいでね」 それだけで有能な護衛官はやってのけるでしょう。 「ふうん…アンタもさ、いいトコあるじゃない?」 おりびえ君がろざりあに笑いかけました。 「わたくしもあんじぇがこまっているのがイヤなだけですわ。それにこのままですとなんだか、ふこうへいなかんじがいたしますもの」 「あの…」 今まで黙っていたりゅみえーる君が口を開きました。 「今日の帰りに女王へいかのもんしょうの入ったばしゃがおすかーをのせたのを見たのですが…」 「女王さまのもんしょう?ほのおのじゃなくって?」 さすがはりゅみえーる君、ライバルの動向は漏らさずチェックしております。 「ええ、門のところに止まってたので気になって見ておりました。おすかーがあらわれると、あっというまにかれをのせて行ってしまいましたので…」 「まさか、せいちからのむかえが来たっていうのかい?もう?」 さすがのおりびえ君も驚きを隠せません。 「おすかーせんぱい、せいちにいってしまったんですか?」 不安そうに聞くあんじぇにおりびえ君は視線をそらせたままでございます。 |
── to be continued♪ |