誕生日編 * 前編 By 白文鳥 2001.12.21 |
歳の瀬を迎えて、街中がなんとなくざわめいておりました。 セント・スモルニィ学園も校庭や中庭の木を電飾で飾り付けて、華やいだ雰囲気を出しておりました。なぜなら年末にはクリスマスという大きなお祭りがあるからでございます。 大昔の神様の生まれた日とも、初代女王陛下のお誕生日とも言われておりますが、起源ははっきりしておりません。 この学園は女王様を何人も輩出している由緒ある学校でございますから、当然クリスマスは女王様のお誕生日という事で行事が行われております。ですが主星の一般の人々にとってはそれはもうどちらでもよくて、今はただ楽しいお祭りという感が強いようでございます。 ○月△日 まちなかがおまつりムードでみんなうきうきしてるようだ。 おれだっておまつりはすきだ。 すきだがこんかいばかりは、なんだか気がおもい。 おれとしたことが、げんきがでない…。 おすかー君いったいどうしたのでしょうか。それは、昨日かわいいあんじぇと公園のベンチでお話した時からなのです。 「おじょうちゃん、今月のよていはどうなっているんだ?パーティのおさそいなんかも たくさんあるんだろう?」 おすかー君はまず探りをあんじぇに入れました。彼女の予定もあるでしょうから、その辺は上手に調整しなくてはなりませんね。あんじぇはにっこりと笑いながら答えました。 「あのね、おすかーせんぱい。ろざりあのおうちのパーティにごしょうたいされているんです。きょねんもよんでくれたんですけど、とっても大きくて、とってもすてきなパーティなんです。わたし、すごーくたのしみにしてるんです!」 主星でも指折りの大貴族カタルへナ家のクリスマスパーティでございますから、それはそれはもう豪華絢爛でございましょう。招待されたいと思っている人はたくさんいると聞きます。 「それはすごいな。さぞかしたくさんの人が来るんだろうな。もちろんごちそうも たくさん?かな」 「うふふ、おすかーせんぱい。わたしそんなにくいしんぼうにみえます?」 うふふ、と可愛らしく笑ってあんじぇは両手を一杯に広げました。 「あのね!こ〜んなに大きくてイチゴがいっぱいのったすごくおいしいケーキがでるんですって!」 おすかー君はあんじぇがケーキを一生懸命つっついているかわいい姿を想像して、おもわずメロメロな顔になってしまいました。 「たべものがおいしいってことはだいじなことさ」 そういえばおすかー君もじゅりあす先輩にクリスマスパーティに招待された時の事を思い出しました。たいそう豪華でございました。おすかー君より大きなケーキがあったのを思い出しました。同じ大貴族のカタルへナ家パーティも同じようなものだろうと想像しました。 「それからえっと…りゅみえーるせんぱいのおうちのパーティにもよばれてます。」 「えっ?」 おすかー君は正直言って寝耳に水状態でした。彼の豆鉄砲を食らったような顔というのは、きっとめったに見られるものではないですね。貴重な一瞬でございました。しばらくはなんと言っていいのかわからなくって口をぱくぱくさせてしまいました。 「それから、まるせるくんやらんでぃくんたちがいっしょにケーキをたべようって!おいしいおみせをかりきってパーティするんですって」 にこにこ顔のあんじぇと正反対におすかー君の顔は段々青ざめてきました。どうやらおすかー君は出遅れてしまったようです。少し早めに手を打っておいた方がいいと計算したおすかー君ですが、早くはなかったようですね。かわいいあんじぇ争奪戦は水面下でもうとっくに始まっていたのでございます。 「あんじぇ…おじょうちゃん。きみはにんきものだ、な…。で、いったい何日なんだい?そのパーティは?」 「えっとまるせるくんにいわれたのが23日。りゅみえーるせんぱいによばれたのが22日。ろざりあのパーティが21日」 「21日…!?」 「それで24日はおうちでパーティしてパパとママといっしょにすごすの」 おれはショックだったぜ。 そう、おれのたんじょうびは21日だった。その日はなにがなんでもあんじぇと 約束したかったのに… おれとしたことが、だいしっぱいだ! 「?おすかーせんぱい?どうしたの?」 「いや、なんでもないさ」 よろよろとおすかー君は立ち上がりました。でもおすかー君、かつてのプレイボーイなセリフはどこへいってしまったのでしょう? おじょうちゃん、パーティもいいが、その日はおれのたんじょうびなんだ。 だいじなきみにぜひいわってほしい。 いっしょにすごしてほしいんだ。 なんて言えたらいいんだが。あのおひめさまのパーティをとてもたのしみにしている きみに、そんなこといえないよな。 …なにをかんがえているんだ、おれらしくない。 だが、これからおれがさそってあんじぇをまよわすのもかわいそうだ。 そうですね。おすかー君はあんじぇにメロキューでございますから、彼女が悩み迷う姿をとてもじゃありませんが見ていられません。 でもやっぱりきみとすごしたかったぜ…。 おすかー君は「炎一族」の本拠地「草原の惑星」からの留学生でございます。主星にいる「炎一族」の人達と一緒に暮らしてはおりますが、家族は皆「草原の惑星」に住んでおります。なにしろ首長一家なので本拠地を離れるわけにはいかないのです。 ですから彼にはホームパーティというものはありません。もちろん一人ぼっちという事はございませんが、誕生日は家族と過ごせません。ですから彼といたしましては、どうしてもあんじぇを招待したかったのです。そうでなければ寂しいパーティになってしまうからなのでございます。 おすかー君は地面にめり込むぐらい深く暗い気持ちになってしまいました。 「おじょうちゃん、今日はもうかえろう。おくっていくぜ」 「おすかーせんぱい?」 あんじぇはもっとお話したかったのですが、おすかー君が黙りこくってしまったので肝心な事を言えないでその日は終わってしまいました。 ○月×日 きょうはおれのたんじょうびだ。 おすかー君元気がございません。日記を一行しか書かないなんて、余程の落ち込んでいるようですね。 いつものようにあんじぇを幼稚舎まで送り届け、学校に着きますとおすかー君はたくさんのお嬢ちゃんに囲まれてしまいました。皆おすかー君に誕生日のプレゼントを渡す為に朝早くから待っていたのです。 全ての女性に優しいおすかー君はにっこりと笑いながら1人ずつに丁寧にお礼を言って受け取っております。 あっと言う間におすかー君の両手はプレゼントの山で一杯になってしまいました。教室に持っていくととてもかさばりますので、おすかー君はあぐねしかにプレゼントの大きな袋をのせて帰しました。あぐねしかはとても利口な馬ですから、おすかー君が付いていなくてもお屋敷まで戻れるのです。 「あぐねしか…今日はむかえはいらないぜ。ひとりで帰りたいきぶんなんだ」 おすかー君はそういうとあぐねしかのお尻をぱんっと叩きました。あぐねしかは心残りなのか後ろを振り返り、振り返り歩いていきました。 |
── to be continued♪ |