2000.6.17 ・◆・ 神澄 裕紀
+4+
「まぁ、まぁ。いつも上手く行くとは限りませんから…ねぇ」
「そう、そう。タイミングが悪かったんだよー」
「………」
男の余りの落ち込みようにオロオロしながらも…
作戦参謀の責任を担ってしまった地の守護聖は、次なる指針を示して彼を元気付けた。
「と、とにかく、気負わずに…。お得意の事で、いいんですよ」
「そうか…。そうだな…」
上の空状態の父親の傍らで、微笑む金の天使と子供達を囲んだティータイムは、
二人の来客の奮闘で、なんとか、楽しく平穏に終わった。
そして、いよいよ本番なのだ。
へこんでいる暇はない。
彼は、気を取り直すと、愛馬に跨った。
草原を渡る乾いた風の中…
燃えるように紅い髪を靡かせた馬上の彼は、男が見ても惚れ惚れするような横顔を見せる。
端正な顔立ちを構成するのは、すっと筋の通った高い鼻と薄く引き締まった唇。
意志の強さを表すやや鋭角的な形の良い眉と、まるで獲物を捕らえるか様に前方を見据え、
氷のように冴えた輝きを宿す薄蒼の瞳が、きりりとした表情を形作っている。
程好い甘さを残す整った顔の下には、大型の剣を腰に携える、立派な体躯が続いていた。
鍛え抜かれた長身の体つきは、大型の馬とも見事なバランスを見せ、
最低限の動作で馬を自在に操る様は、人馬一体、一つの芸術を見ているようですらある。
広がる草原を背景に…。
すっと背筋を伸ばし颯爽と愛馬を駆る彼の姿は『強さ』を司る炎の守護聖そのもの。
まさに、地上に降り立った軍神であった。
彼は、馬上でさらりと剣を抜くと、手綱を操り馬を駆りながら、
前方の成人の腕ほどの太さの木の枝を一刀のもとに切り捨てた。
しかし…。
「うわー、ちゅごい、ちゅごいっ!」
手を叩いて喜ぶ娘に反して、その方面に興味の無い息子は、
ひざを抱えて座り込むと父の妙技をぽけーと眺めている。
予想以上の難航に、見届け役の二人の守護聖も、家のテラスで苦笑していた。
「うーん。やはり、女性にしか受け無いんでしょうかねぇ?」
「それは、違うと思うケド…」
のーんびりとしたセリフに苦笑しながら、夢の青年はティーカップを口元に運んだ。
太陽は西に傾きかけて、柔らかな陽射しが草原を包んでいる。
「やはり、ココは一つ、必然の為の偶然が必要ですかねぇ〜」
「え?アンタ、何、訳の分かんない事いってんの?」
怪訝な表情で金の睫を瞬く青年を無視して、ターバンをした青年は懐に手を入れ
何やらごそごそと始めたのだった。
一方、馬上で実演を続けていた炎の男は、例えようも無い空しい気持ちに襲われていた。
聖地中、いや、全宇宙の女性ならず男性にも羨望と称賛の眼差しに不自由した事の無い
この俺様が、たった二人の幼子に認められたいが為に悪戦苦闘するとは…。
世の父親とは、皆、こんな涙ぐましい努力をしているのだろうか…。
苦労が報われない事に、表面クールに装う彼も、内心、挫けそうになっていた。
双子に統一の見解が得られなければ意味が無いのだ。
子供達(特に息子)の反応が、あまりかんばしくない事に、作戦中止を伝えようとした時…。
どどど…と沢山の蹄が大地を蹴る音が、風に乗り、彼の耳に聞こえて来た。
形の良い紅い眉を、怪訝そうに歪めて首を巡らすと同時に、テラスの二人が叫び声を上げた。
「あーっつ!!大変です〜〜〜っつ!!」
「ちょっとーっ!あれを見てっ!」
薄蒼の瞳の見つめる先と、二人の指差す方向…。
大草原の彼方から、もうもうと上がる土煙の一団が、こちらに近付いて来るのが見えた。
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