カッコイイって? +3+

2000.6.17 ・◆・ 神澄 裕紀 


+3+


「まずは、身近な行動から認識させるというのは如何ですか?」
「と、いうと?」
「つまり、日常の生活態度から認識させる…
 具体的には… (延々と略) …という事ですね」

「………。そんな事で良いのか?」
「はい」

にーっこりと満面の笑顔で、こっくりと肯く地の守護聖と、
いつもの不遜な態度もどこへやら…。
長い長がぁーい説明を少し不安そうな表情を浮かべて神妙に拝聴している炎の男。

青年は、その二人を交互に見比べながら…。
ルージュを引いた薄い唇の端に力を入れ、笑わないように必至に堪え続けていた。


「よし、即実行だっ!」
「善は急げですからねぇ〜。あー、でも、私の話とは少し違う気が…」
「え、えっ?!ホントにそんな作戦でいいのぉ?!」

やはり、長々とした説明を素直に聞いている男ではなかった。
神妙に見えた頭の中では、しっかりと彼なりの作戦が組み立てられていたのだ。
かなり強引に、己に都合の良い解釈で話をまとめた彼は、直ちに行動を開始した。


「これから、カッコイイを教えてやる。いいか、よく見ておけよ」

赤毛の父親は颯爽と、キッチンで、ふわふわと揺れている金の髪に近付いた。

背後では、何が起こるのかとワクワクした表情の赤いクセ毛の娘と、
昼寝中に無理矢理起され、半分眠った「ぽよーん」状態の金の髪の息子が、
どこから調達したのか、薔薇の花束を抱えた彼の行動を見守っている。


さらにその後ろでは、二人の守護聖が事の成り行きを見届けようと目を輝かせていた。

(………あいつら、面白がってるな……)

状況は気に入らないが、背に腹は変えられない。
なにしろ、父親の権威がかかっているのだ。
後ろに花束を隠し、背中を向ける愛妻に近付くと、壁にひじをついてポーズを取る。
そして、ここ一番という甘い声で囁いた。

「よぉ、お嬢ちゃん。調子はどうだい?」

この時点で、既に何かが間違っているのだが、残念ながら指摘するものはいない…。

甘い香りに包まれたキッチンでは、窓から差し込む陽射しを浴びた金の天使が一人。
彼女は、来客をもてなすためにあたふたと飛び回っていた。
あまり要領がいい方では無いため、お茶の支度に一生懸命なのだ。


それでも素敵な声に反応して、スイートエンジェルスマイルで微笑み返す。

「あっ、もー少し待って下さいね。今、ケーキが焼き上がりますから…」

いつ見ても、彼女の微笑みに敵うものはないな…などと納得しつつ…。
翠の瞳に微笑みかけて、さぁ、次は、決め台詞と共に花束を差し出すぞ、と構えたが…。

愛する妻は返事だけをすると、くるりとレンジの方を向いてしまった。

「子供達を見てて下さいね」

華奢な背中越しに飛んできた声が、彼に止めの一撃を加える。

「あ…、えっ?」
「ちょっと目を離すとあの娘ったら、すーぐ外に遊びにいっちゃうんだから…」

「………お嬢…ちゃ…ん」


すっかりこのオスカー様を無視して動き回る華奢な愛妻の姿に半ば見とれ…。
見事に無視された事に半ば呆然としながら…
赤毛の男は、後ろ手の薔薇の花束も空しく、その場に立ち尽くしていた。

百選練磨のプレイボーイが、見事に敗れた…そんな瞬間であった。

暫し茫然自失………の後、彼がハッと我に返って振り向くと…

だるそーに首を回し、青い瞳を半眼にしてチラリとこちらを一瞥した息子と…
事の成り行きを無視して、まだワクワク顔の娘の翠の瞳がこちらを見つめている。
その後方からは…
肩を震わせる夢の守護聖と、気の毒そうに、困惑した笑顔を浮かべた地の守護聖…。

「み、見た、?あの、ぽよんちゃんの表情!!ヤ、ヤツそっくり…」
必死で笑いを堪えても、夢の青年の声はフルフルと震えている。


「おトーたまぁー、カッコイイって、どれ?」

追い討ちをかける無邪気な声に、繊細なハートをグッサリと串刺しにされつつも
平静を装って、娘に笑顔を向けてみたりして…。

「あぁ…。カッコイイは、一時お休みだ…。オテンバちゃん…」

妻にカッコイイと言われて、子供達に認識させるという安易な手段がいけなかったのか…。
ともかく、このナンパな作戦は、決行を急ぐあまり開始と同時に強制終了してしまった。

いつもの余裕もどこへやら…
子供達への気負いが失敗をもたらした事に、冷静な軍人であるはずの彼も気づかない。
ただ無残な結果に、鍛えられた精神を持つ炎の男も、ガックリと肩を落としたのであった。


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