急接近

1999.4.25 ・◆・A-Oku 


3a/3

「やったぁ〜」
その瞬間、少女は椅子から立ち上がり、手をたたいて喜んだ。
「完敗だ。降参するぜ。」
青年は両手をあげて、『お手上げ』のポーズを作った。
「オスカー様、約束ですよ。」
「ああ、来週5日間連続でエリューシオンに炎の『強さ』を送るぜ。」
青年は頭をかいた。
「しかし、お嬢ちゃん。随分と強いんだな。」
「どこかの守護聖さまに鍛えていただきましたから。それに、育成がかかっていましたし。」
「フッ、そうか…」
「じゃあ、もう遅いのでわたし帰りますね。」
「ああ、送っていこう。」



女王候補寮の前には、二人の姿があった。
「送っていただいてありがとうございました。」
「こんな夜更けに連れ出したのは、こっちだ。当然のことだぜ。」
青年の口元には笑みが浮かんでいる。
先ほどまでは楽しそうにしていた少女には言うべき言葉がみつからなかった。
「えっと、それじゃあ、おやすみなさい、オスカー様。」
ぺこりとお辞儀をして、少女は建物の内へ入ろうと、した。
「あ、お嬢ちゃん。」
青年が声をかけた。
「はい?」
少女が振り向いたその時、
(???)
さいしょ、なにがおこったのかちっともわからなかった。
何が起こったのか解ったのは、口の中にワインの甘さが広がったから。
「おやすみ、お嬢ちゃん。」
ハートマークがつきそうな声色を少女の耳元に残して、青年は駆けていった。

「オスカー様のばかぁ」
口元を手で覆った、泣きそうな少女の声は深い夜の闇に溶けていくだけだった―――


・◆ FIN ◆・



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