きょうのわんこ☆

1999.9.16 わんこ☆ A-Oku 




   むかしむかし、おすかーと云う名前の炎の守護聖さまがいらっしゃいました。
おすかーは他の空間から切り離された「せ いち」という所に、宇宙を統べるという女王さまや他の守護聖さまと共に暮らしていたのです。
 印象的な赤い髪、氷色の瞳を持つ彼はたいそう女性が好きで、また実際女性によくモテたそうです。
そんな彼は「せい ち」脱走の常習犯。せいちの外にある街で朝まで遊び歩くこともたびたびあったということです。

 ある時、女王さまが代替わりされることになり、次の女王さまの候補として二人の女性を招き、試験を行うことになりまし た。
 当然、自他共に認める「女性好き」であるおすかーは期待をしました。
独自の情報網を使ってその二人の事を調べてみ たりもしました。
 結果は、というと…。
期待が大きかった分、おすかーは落ち込みました。
いえ、二人は大層かわいらしくはあったのですが、17歳の少女だった のです。
 おすかーの好みは「レディ」でした。「お嬢ちゃん」ではなかったのです。

 くさくさした気分のまま、おすかーはその日もまた「せいち」を脱けだし、下町のちょっとお洒落なバーでお酒を飲み、いい気分で帰って来ました。
 ところが、こともあろうに女王さまに見つかってしまったのです!

「おすかー、そなた…。この大事な時期に…」
女王さまはカンカンです。
「罰を甘受せよ」
女王さまは手にした錫杖をひとふりしました。
するとどうでしょう、おすかーはなんとオオカミの姿になってしまいました。
「しばらくその姿でいるのだな」
女王は満足そうに一人うなずくとその場を立ち去ってしまわれました。
あとに取り残されたのは茫然自失のオオカミが一匹…。

 おすかーは女王さまにご機嫌をなおしていただくため、光の守護聖さまの元を訪れました。
しかし、今のおすかーはただのオオカミ。話したくても人語を発音することが出来ません。
仕方がないので、光の守護聖さまをじっとその氷色の瞳で見つめます。
 光の守護聖さまは、長いつきあいだけあってさすがに気づいて下さいました。
「他のオオカミとの区別だ」
とおっしゃられておすかーが普段身につけていた青いマントを掛けて下さいました。
そうなのです、この「せいち」は自然が多く、オオカミなどもいたりするのです。
光の守護聖さまが自分を認識して下さったとはいえ、これではあまり喜べません。
なんだか自分がとても悪いことをしているような気がするおすかーなのでした。

 そんな風に数日が経ち、女王候補の二人がやって来ました。
新たなる女王選出のため「ひくうとし」と呼ばれる場所で試 験を行う為に守護聖さまは皆、移動しなければなりません。
 女王さまもさすがにおすかーをいつまでもオオカミにして置けないとお思いになられたのか、夜だけ人間の姿に戻るよう にしておかれました。
脱走常習犯に対して夜だけ人間というのも不思議な感じですが、昼間仕事が出来ないので必然的に 夜に仕事をしなければならなくなり、脱走をはかれなくなったのでした。

 女王候補の二人に課せられた試験は、守護聖さまの力を借りて「ひくうとし」の近くにある街「えりゅーしおん」と「ふぇりし あ」を発展させることにありました。
 当然、炎の守護聖であるおすかーの力を借りる必要もあるのですが…。
女王候補の二人には、おすかーは所用で日中は留守にしている、とだけ伝えられておりました。
二人が炎の力を借りたい 場合、執務室にお願いの手紙を置いてゆきます。
おすかーは夜それを見て、街の育成を行うのです。
 二人は時々、守護聖さまの育成する所を夢に見ました。
その時に見るおすかーはもちろん人間で、しかも男前です。
当 然、二人は本物のおすかーを見たいと思うようになりました。そして、何故逢うことが出来ないのか不思議がりました。

 逢えなくて気になっているのはおすかーも同じでした。
他の守護聖さまからの話を聞いたり、育成の様子を見るうちに「お じょうちゃん」にも興味がわいてきたのです。
とはいえ、オオカミの姿のまま会いに行ったりすれば驚かれ怖がられるに決ま っています。

 おすかーは人間に戻ったとき「せいち」にいる女王陛下に頼みに行きました。
ところが…。
「すまない、おすかー。私には元に戻せないんだ。」
何ということでしょう! 女王陛下のお話によれば、完全に人間の姿に戻るには「お姫様のキス」が必要だと言うのです。
オオカミの姿のおすかーにキスしてくれる人間などいる訳がありません。もう元に戻れない。そんな想いがおすかーを支配 するのでした。

 それから、数日後の昼間のことです。おすかーは「ひくうとし」の森の中を四本足で歩いていました。
本来ならば庭園とい ったような人の集まる場所が大好きなおすかーは当然の如く、一人さびしくとぼとぼと歩いておりました。
あまりにぼけっと 歩いていたのでしょう。前方にいた人物におすかーは気がついていませんでした。

「え…?」
実際に声をあげたのはおすかーではなかったですが、気分的にはおすかーも同じでした。
マズいと思ったおすかーはきびすを返そうとしたのですが、なんとその人は自分に向かって来るではありませんか。
いま や、おすかーにもその人物が誰かわかっていました。その人は金の髪の女王候補でした。
何故、こんな所にいたのかはわ かりませんが、とにかく逃げても追いかけてきそうなことはわかりました。
おすかーは仕方がないのでその場にとどまること にしました。

 金の髪の女王候補はおすかーを不思議そうに眺めています。
「どうして青いマントを身につけているの?」
おすかーには答えることができません。女王候補もまた答えを求めてはいないようで、一人で話を続けます。
「あのね、炎の守護聖さまという方がいらっしゃるんだけどね。その方も、青いマントを身につけていらっしゃるの。…といっ ても、まだ実際にお会いしたことはないのだけれど…。」
そう言って、金の髪の女王候補は空を見上げました。
「どんな方なのかなぁ。お逢いしてみたいなぁ…。」
(俺はここにいるんだ!)
おすかーは叫びました。だけれども、その声はオオカミそのもの。女王候補はびっくり、目を丸くしていました。
(しまったっ)
ところが、女王候補は意外な行動に出たのです。
「また、あなたに会いたいのだけどいいかな?」
おすかーは肯きました。
すると…
「じゃ、約束ね。」


reference) screen saver & illustration "prince"
Ryokoさまのスクリーンセーバに続きます

◇□◇
  「おしまいっ」
アンジェリークは手にした本を勢いよく閉じた。
「ね、素敵なお話でしょ。」
傍らにいる赤い髪の青年ににっこり笑いかける。
「アンジェリーク」
「はい?」
「どうでもいいが、その男に『おすかー』ってつけて呼ぶのは止めてくれ。」
「えーっ。だって炎の守護聖といえば、やっぱりオスカーさまでしょう? それに、カッコいいじゃないですか。」
(かっこいい? どこがだ?)
そう思ったオスカーだが彼女の満面の笑みを見ると何も言えなくなってしまう。
気を取り直して口を開いたときには、既に数分の時が経っていた。
「で、その『カッコいい』男と俺と。君の好みはどっちなんだ?」
アンジェリークは数瞬きょとんとした。そして大笑いしだした。
「やだ、オスカーさまったら。もちろん、オスカーさまの方が何百倍もカッコいいですってば。」
「お嬢ちゃん、そういう台詞を笑いながら言うと効果がないって知っているか?」



穏やかな昼下がり、の一コマだった。

      
わんこ☆ FIN わんこ☆



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