星のオアシス

1999.12.31 ・◆・ A-Oku 




一面の銀世界を前にふたりはたたずんでいた。

「こんな何もないところに来たがるなんて変わっているな」
「そうですか? …でも見てみたかったんです。
この星の風を、大地を、貴方が『忘れられない』と言った風景を…」
翡翠色の瞳を煌めかせて彼女は言った。

「なるほど。道理でここにこだわった訳だ。」
氷色の瞳の青年は、ここに来る計画を立てた時の事を言っている。
行きたいところはどこか、との彼の問いにこの惑星をと、彼女は即座に答えた。
「やっぱり一度くらいは、ね。それに、どんなところで育てば目の前にいるような
カッコいい男性になるのか知りたかったですし…」
「かわいいことを言ってくれる。」
「ふふっ」

彼女はいつの間にか白い固まりを手にしていた。
「こういうのも一度やってみたかったの」
ぱふ。
小気味いい音をたてて雪玉が崩れる。
「あたった、あたったー」
無邪気な顔をして喜ぶ金の髪の天使。見ていた青年もつられて笑った。
「こらっ」
逃げ出すアンジェリークを追いかけるオスカー。

「そら、捕まえた」
「きゃっ」
バランスを崩して二人は白い大地へ倒れ込んだ。
二人の笑い声が冷たい空に溶けていく。
アンジェリークは仰向けになり、両手を空に差し出した。
「あのね、こうやって空を抱きしめるの。」
そしてくるっと反転した。
「それから…大地を抱きしめるの」
「それじゃあ俺は、俺の天使を抱きしめるぜ」
隣で見ていたオスカーはそう言って、アンジェリークと口づけを交わした。


二人は並んで帰路についた。
冬を心ゆくまで堪能したアンジェリークはオスカーに話しかけた。
「オスカー様の…じゃなかった。オスカーの故郷って良いところね」
『様』を言った時点で睨まれてしまったアンジェリークはあわてて言い直した。
「そうだな…。だがここは俺の故郷ではないんだ」
「えっ、でも…」
「確かにここで生まれ育ったんだが、もうここは俺の帰る場所じゃない」
オスカーはきっぱりと言い切った。
「じゃあ、オスカーはどこに帰るの?」
彼の最愛の女性は未だ大人と子供を行ったり来たりしていて、
疑問をそのまま口にした。
「小さなからだにハートをいっぱい詰め込んだ女性(ひと)の所だ…」
そう言ってアンジェリークを抱きしめた。


「オスカー?」
「どうした? 俺のお姫様?」
「オスカーは私の帰るところになってくれる?」
オスカーは微笑した。
「もう、ずっと前から俺は金の髪の天使に貸し切り状態なんだぜ?」

      
・◆ FIN ◆・



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