Le Petit Jour

2000.1.16 ・◆・ A-Oku 




少しだけはみ出した肩に外気が触れる。
「ん…」
ふとんをたぐり寄せ、寝返りをうった。
(あれ…?)
人の気配を感じて目を開けた。
すると、そこには

(オスカー様だ…)
眠るオスカーの姿があった。
不意をつかれたアンジェリークは妙にドキドキした。
(どうしてここにオスカーさまが…? あっ…)
考えて、ようやく昨日の出来事を思い出した。
「結婚、したんだ…」
つぶやいてみても実感が湧かない。
みんなのお祝いの言葉やオスカーの言葉も耳に残っているけれど。
実際、きのうの事は今でも信じられない。
なんだかとても遠くの出来事のような気がしていた。

(まつげ、長かったんだ…)
じっとオスカーの寝顔を見ていて、そんなたわいのない事に今頃気がついた。
こんなに近くでオスカーの顔を見たのは、何度目?

「そんなに見つめられるとこっちが照れるな」
突然の言葉と共にまわされていた腕で引き寄せられた。
「あ、え? えーっ! いつから起きて…」
アンジェリークは驚きのあまり口ごもった。
「寝返りをうった辺り、かな」
「そ、それじゃ最初からじゃない〜。も〜」
「あんまり熱い視線をくれるから外せなくってな」
オスカーの目元も口元も笑っていた。
対するアンジェリークは、というと手で顔を覆ってしまった。
「なんで顔を隠すんだ?」
「…恥ずかしいから」
オスカーの腕の中でアンジェリークは『ゆうべのこと』も思い出してしまっていた。
「どうして恥ずかしいんだ?」
「……いじわる…」
「俺は生まれ変わったような気がするけどな」
「??」
言葉の意味が分からず、オスカーを見てしまった。
その途端、オスカーの瞳がいたずらっぽくきらめく。
「ようやく顔が見られたな」
「あっ…。もう〜。それより『生まれ変わった』って?」
「朝起きるとこうして目の前に君がいて。君の熱を感じて。…独りじゃない朝ってのは
いいものだな」
アンジェリークの頬はますます赤くなってゆく。
「そういうこと目の前で言わないでください〜。だいたいオスカー様だったら、他の女性と…」
「一緒に朝を迎えた女性は君だけなんだぜ」
信じる、信じないは自由だけどな、とオスカーは笑った。
「オスカーさま、『信じる』って言ってもらいたい顔してる」
アンジェリークは半分くらい八つ当たりしながら言った。
「もちろん君に信じてもらえなければ意味がない事だよな」
「じゃあ『信じる』」

「じゃあ…ってのがひっかかるな」
笑みを絶やさないまま、オスカーは不満そうに口を開いた。
「一緒に『夜を過ごした』女性の人数、教えてくれたら『信じる』になりますよ…たぶん」
今度はアンジェリークの瞳に小悪魔的な光が宿った。
オスカーはアンジェリークのおとがいに手をかけた。
「…そんなことを言う悪い口は…」
「悪い口は?」
「ふさぐぞ」
「きゃあ〜」


思うまま、互いの熱を伝えあった後でアンジェリークはつぶやいた。
「私も、生まれ変わったと思うの。昨日までの自分と今の自分…。
何も変わらないはずなのに…。すべてがきれいに見える…」
「ここに君がいる。俺にとってはそれがすべてだ」
「私がここにいることが?」
「ああ、そうだ。だからもっと近くにおいで。俺の、こころの、近くまで…」
「私でいいの?」
「それを今更、聞くのか? それとももう一度、俺に言わせたい?」
「何度でも聞きたいな。」

アンジェリークの耳元でささやかれた言葉は、とっておきの言葉
それだけで幸せになれる、魔法
夢の続きの覚めない、不思議な夢

「オスカーさま。私、今すごく幸せ」
「俺もだよ、アンジェリーク」


・◆ FIN ◆・



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