By 白文鳥 11.3.2000 |
セント・スモルニィ学園は、主星きっての名門学校でございます。大貴族のお嬢様、お坊ちゃまが数多く通っております。もちろん近隣の普通の家庭の子供もおりますが、ちょっと裕福な家庭では、子供をここに通わせたくてわざわざ引っ越してきたりいたします。 さらに遠く、違う惑星から来ている子供も珍しくありません。それほどこの学園は一種のステイタスになっているのでございます。 朝の学園は、いずこの学校でも見られる普通の登校風景が繰り広げられております。 ですが、さすがは主星きってのお嬢様、お坊ちゃま学校です。徒歩で登校する子供よりも、運転手付きの乗り物で来る子供の方が多いのでございます。そして乗り付ける乗り物の種類も豪華さも半端ではございません。 その中でひときわ豪華な乗り物で登校なさるのが、カタルへナ家のお嬢様ろざりあです。なにしろ四頭立の馬車なのでございますから、一目でろざりあが登校なさったのがわかります。もちろん大貴族カタルへナ家の紋章が輝いております。 さて、われらがおすかー君は…。 ○月□日 きょうはあさからさいこうなきぶんだ。 おれはとてもいいことをおもいついたからだ。 これからまいあさ、学校に行くときにあんじぇをむかえに行くんだ。 なんていい『あいであ』なんだ! おすかー君は鼻歌まじりに愛馬のポニーをなでていました。おすかー君は学校へポニーで登校します。名前はあぐねしか。とても利口な馬です。 馬で登校する生徒は決して珍しくありません。おすかー君が尊敬しているじゅりあす君も、よく馬で登校いたします。ですが、お家が大貴族なので、ろざりあに負けず劣らず立派な馬車でいらっしゃることもございます。 はやめにうちを出てあんじぇのうちまでむかえに行こう! あさからあんじぇのかわいいかおを見られるなんて、しあわせってもんだ。 そうだ!あんじぇにふさわしい花をもって行こう。きっとよろこぶだろうな。 花を持ってにこにこしているあんじぇを想像して、おすかー君はちょっとにやけ気味です。 さてこちらは肝心のあんじぇ。あんじぇは歩いて学校まで行きます。 家を出ようとした時、外にりゅみえーる君がいました。りゅみえーる君も歩いて登校しますが、通学路の途中にあんじぇの家があるのでした。ですからりゅみえーる君はあんじぇの事を前から知っておりました。 「おはようございます。よくおあいしますね…」 りゅみえーる君はさりげなく声を掛けました。偶然を装っておりましたが、もちろんそんな訳ありませんね。でも「偶然」を装うという事はこういった場合とても大切です。 運命が味方をしている、という演出は重要です。 「おはようございます。えっと…?」 確かに顔は何度か見たことがあるけれど、あんじぇは彼の名前を知りませんでした。 「ああ、これはしつれいをいたしました。わたくしはりゅみえーる、です」 「わたしはあんじぇです」 「きょうはとてもよいお天気ですね。…よかったらがっこうまでごいっしょいたしませんか?」 「え?あ、はい」 あんじぇはなんだかよく解らなかったけれど、断る理由が無かったので、そう答えました。 おれはあんじぇのかおをはやく見たくてあぐねしかを走らせた。 なのになんであいつがあんじぇのとなりにいるんだー? やっぱりりゅみえーるのやつ、あんじぇにきがあるにちがいない。 おすかー君一歩遅れて登場という事になってしまいました。彼にしては不手際ですね。 「おはよう!おじょうちゃん!君にふさわしい花をささげるぜ!」 おすかー君は遅れを取った事を全然気にしない様子で馬を降り、スイートピーを渡しました。可憐な雰囲気が予想どうりとても似合っております。おすかー君はりゅみえーる君の事はあえて見ないふりをしました。 「うわぁ!かわいいおはな!ありがとう、おすかーせんぱい」 あんじぇのにっこりと笑った顔に、おすかー君は朝からめろめろな感じです。 ちらっとりゅみえーる君の方を自慢気に見ました。確かに彼はとてもイヤそうな顔をしておりましたがすぐにいつもの穏やかな顔になっておりました。りゅみえーる君も挽回を狙います。 「あまりゆっくりしているとちこくしてしまいます。いそぎましょうか…」 さりげなくあんじぇを促しました。が、おすかー君もここで負けてはいられません! 「だいじょうぶさ!おれがこのあぐねしかでおくって行くぜ!」 あんじぇは馬に乗った事がなかったので、ちょっと驚きました。でも、おすかー君がそう言うのなら乗ってみようかな、と思いました。あぐねしかと呼ばれたその馬はとても利口そうで、優しい目をしていたからです。 「おすかー?そんなきけんなことをこのおじょうさんにさせるのはどうかとおもいますが…?」 おれはあんじぇのかおをはやく見たくてあぐねしかを走らせた。 なのになんであいつがあんじぇのとなりにいるんだー? やっぱりりゅみえーるのやつ、あんじぇにきがあるにちがいない。 おすかー君はちらりとりゅみえーる君の方を見て笑いました。そしてあんじぇにこう言ったのです。 「だいじょうぶさ!このあぐねしかは、とてもやさしい馬なんだぜ。まちがってもおじょうちゃんをおとしたりするもんか。それにおれもいっしょにのるからな。しんぱいはいらないぜ?」 おすかー君お得意の笑顔をあんじぇに向けました。 おすかー君としてはあんじぇをのせてじぶんが手綱を引く、という図を想像しておりました。何しろ初めてなので、いきなり一緒に乗るなんて言ったら警戒されるのでは、と踏んでいたのです。が、しかし、りゅみえーる君の一言を幸いに、さも安心させる為といった風に話を持っていきました。 「おすかーせんぱいがいっしょにのってくれるなら…」 『やったぜ!』おすかー君、頭の中でガッツポーズをしました。 りゅみえーる君はちょっと悔しそうな顔をしました。が、おすかー君がにっと笑ったのであわてて普通の顔に戻りました。 おれはそのときしょうりをかくしんしたぜ! これを『ちゃんす』に、まいあさのやくそくをするぜ! おすかー君の意気込みは半端ではございません。立派ですね。 「よろしくね?あぐねしかちゃん」 あんじぇがあぐねしかに話し掛けます。あぐねしかは嬉しそうに鼻を鳴らしました。 「あぐねしかもおじょうちゃんが気に入ったようだぜ?」 りゅみえーる君を置いてさっさと行こう。そう思った時向うから馬車が来ました。 何事だろうと3人がそちらを注目しました。おすかー君に何かイヤな予感が走りました。 するとすぐ側に止まった馬車には燦然と輝くカタルへナ家の紋章がありました。おすかー君の予感的中です。そしてゆっくりとドアが開いてろざりあが降りてきました。 こんなことなら、りゅみえーるなんかほっておいてさっさと行っちまえばよかったぜ。 おれはかなりこうかいした。 ろざりあはあんじぇの所へ走り寄ってきました。 「おはよう!あんじぇ!きょうはね、はやおきしてしまったの。だからあんじぇをむかえにきたわ」 「おはよう!ろざりあ!ありがとう!…でもあのおすかーせんぱいが、ね」 ろざりあの目が光りました。そして初めておすかー君に気が付いたというような顔をいたしました。 「ごきげんよう…おすかーせんぱい。まぁ、あんじぇ。でもおすかーせんぱいはおうまでいらっしゃるのでしょう?」 「うん!だからおうまにのせてくれるって!」 うれしそうなあんじぇにちょっと気が咎めましたが、ろざりあはとても驚いた顔をいたします。 「ああぁ〜!あんじぇ。わたくしはだいじなおともだちに、そんなきけんなことはさせられないわ!」 「きけん、とはおことばだな。あぐねしかはゆうしゅうな馬だ。きけんなことはないぜ!」 おすかー君不満を隠せません。しかしろざりあは断固として言いきりました。 「わたくしがきけんだともうしたら、それはきけんなのですわ!」 さすがは大貴族カタルへナ家のお嬢様。他人の言葉に聞く耳は持ちません。特にこの場合は、大事なお友達を悪の手先から守らなければという使命に燃えておりますから、一歩も譲らぬ構えでございます。 「さあ、まいりましょう!」 ろざりあはあんじぇの腕を取って馬車へと促しました。 「でも、おすかーせんぱいが…」 ろざりあはくるりと振り返ってびしっと言いました。 「あんじぇ!あさとはいえ、ひざしはもうきついのよ!『しがいせんたいさく』しなくてはいけないでしょう?おすかーせんぱいだってあんじぇのおはだがあれるのはこころぐるしいのではなくて?」 いきなり話をこう振られておすかー君はうっかり頷いてしまいました。 「それでは…しつれい」 馬車に乗り込むあんじぇに慌てておすかー君は声を掛けました。今を逃がしたら、帰りの約束なんて出来そうにございませんからね。 「おじょうちゃん、きょうはいっしょにかえれるんだろう?」 あんじぇが返事をする前にろざりあが言いました。 「あら!だめよ、あんじぇ。きょうはね、ヴァイオリンのおけいこがおやすみなの。だからごごはずっとわたくしとあそんでくださらなくては!」 ろざりあは毎日色々なお稽古をこなしております。幼稚園が終わった後にゆっくり遊べる事なんてめったにございません。 あんじぇはさすがにおすかー君に悪いなと思いました。 「あの、でも…」 あんじぇが断りそうな雰囲気で話始めたものですから、ろざりあは焦りました。 「あんじぇ、ねえ?まさかわたくしのさそいをことわるの?」 「だっておすかーせんぱいとおやくそくしちゃったし…」 ろざりあが怒るのかと思ってあんじぇの声はだんだん小さくなってしまいました。 ところが… 「あんじぇ…わたくしがまいにちおけいこであそべないの、しっているでしょう?こんなことってめったにないのよ!それにわたくしのまわりにはほんとうのおともだちなんてあなたしかいないのよ。…あなたにことわられたら…わたくしは…」 大きな瞳から涙が零れ落ちました。 あんじぇは慌てて 「ろざりあ、ごめんね、ごめんね!きょうはわたしずーっといっしょにあそんであげる!」 そしておすかー君に向かって 「ごめんなさい、おすかーせんぱい。またこんどさそってくださいね!」 あんじぇはろざりあの肩を抱いて馬車に乗り込みました。 おすかー君は呆然と見送ってしまいました。 このおれがふられるとはな。まったくたいしたおじょうちゃんだぜ! それにしてもあのカタルへナ家のおひめさまにはやられたな。 しかたないな。おじょうちゃんはとてもやさしいから、あんなふうにたのまれたら ことわれないにきまってるぜ。 まぁ、きょうのところはゆずってやるか。 おすかー君は仕方ないな、という風にふっと笑いました。ところが馬車に乗り込む直前ろざりあが少しだけ振り返って、ふふんと笑ったのです。 それは一瞬の事であんじぇも気が付かないほどでした。でも確かにおすかー君は見たのです。その表情が勝ち誇っていたことに。 ろざりあはしごく満足でした。大事なお友達を魔の手から守る事が出来たのですから。 そしておすかー君の方を見て、悔しかったら貴方も泣き真似の一つぐらいなさったら?という顔をいたしました。本当ならばアッカンべーの一つもやりたかったのですが、大貴族のお嬢様といたしましては、そんなはしたない真似は出来ませんね。 ヴァイオリンのお稽古も大事ですが、もっと大事なお友達の為なら先生にウソの連絡をしてレッスンをお休みすることも悪い事には思えません。 ろざりあはにっこりとあんじぇに笑いかけました。 馬車を見送るおすかー君に初めての敗北感が訪れました。 くっそー!おれとしたことが、うかつだったぜ! すっかりだまされちまった! あのおひめさまは、ただもんじゃないな。 けど、このつぎはぜったいにまけないぜ! おすかー君の恋の成行きはまだまだ難関続きのようですね。 |
── to be continued♪ |