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ひみつ日記
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   ここ、セント・スモルニィ学園で、真っ赤な髪が自慢の小学一年生おすかー君はとても人気者です。女の子にも男の子にも人気があります。特に上級のおねーさまがたにはぜつだいな人気がございます。

○月×日
 きょうもたくさんのおじょうちゃんにかこまれて、たいへんだったぜ!
 なにしろおれは、せかいじゅうの女の子のこいびとだからな。
 
 でも、ほんとうはこの間見かけた、あの子が気になってしょうがないんだ。
 おれとしたことが、どうしたもんだ。

 だってとてもかわいいんだぜ。
 ふわふわのきんぱつに、きれいでしんぴてきな緑色の目。
 おれは一発でノックアウトだった。

 
 セント・スモルニィ学園小学部の隣には、隣接して幼稚舎があります。校庭も一緒で行事なども合同で行なうなどいたします。当然交流もございますし、小学部の生徒は色々と面倒を見てあげるのが慣例でございます。

○月△日
 あの子の名前がわかった。
 ようちしゃのねんちょうぐみの「あんじぇりーく」と言うんだ。
 みんなからあんじぇとよばれている。
 かわいい名前だぜ。あの子にぴったりだ。

 なかよくなるには、いっしょに帰るのがいちばんだ。
 まずは「おともだち」からはじめなくちゃな!


「おじょうちゃん、一人でかえるのかい?しんぱいだな。おれがおくっていくぜ?」
おすかー君自慢のポーズで声をかけたまではよかったのですが、後ろから不機嫌そうな声がいたしました。
「まぁ、ごしんぱいなく。わたくしがいっしょにかえりますから」
振り返るとそこには特待生のバッジを付けた青い巻き毛の女の子が立っておりました。
「おんなの子二人でもブヨウジンだぜ」
「だいじょうぶですわ。ばしゃをまたせてありますので」

『ばしゃだと?そんなレトロなものにのるなんて、このしゅせいじゃ「せいち」のかんけいしゃか、よほどの大きぞくくらいなもんだぜ。』

おれにかまわず、その女子はあの子のうでをひっぱって行ってしまった。
なんなんだー?ものすごくてきいをかんじたぞ!


すると、くすくすと笑う声が柱の影から聞こえました。
「名うてのプレイボーイもかたなしですね」
その声はおすかー君の最も苦手とする同級生のりゅみえーる君でした。
「どういういみだ?」
「べつに…。ばしょとあいてをわきまえたらいかがですか」

おすかー君は、いつもながらいやみなヤツだと思いました。もともとりゅみえーる君は「水一族」で「炎一族」のおすかー君とはそりが合わないのでございます。

「みさかいのないのも、みっともないですよ」
追い討ちをかけるようにりゅみえーる君は続けます。
「はしらのかげからこっそり見ているなんざ、おまえこそまるで『すとーかー』だな!」
りゅみえーる君の顔が流石に怒りで真っ赤になりました。おすかー君けんかなら買うぜとかまえたら、すぐに元にもどり今度は悲しそうな顔をして、こう言ったのです。
「そんなふうにしかかんがえられないとはあなたもあわれなひとですね…」

りゅみえーる君達「水一族」の人々は決してと言っていい程怒りません。なぜなら怒りという感情は彼らにとってとても不調法な事なのでございます。
たとえ幼い子供といえども例外ではないのです。
対して「炎一族」は皆感情がとても豊かで、それを隠したりしません。特に愛情表現はとても情熱的で、そのせいか、恋愛の達人などと言われたりしています。

 けっきょく今日はあの子もさそえなかったし、りゅみえーるにおもいっきりいやみをいわれるし、きぶんがわるいぜ。
 それにしてもあんなにつっかっかってくるとは、もしかしてりゅみえーるもあの子に目をつけていたんだろうか?

 あとでわかったが、あの青い髪の女の子のなまえは「ろざりあ」。 
 だいきぞく、カタルへナ家のごれいじょうだった。
 そしてあのかわいいあんじぇのしんゆうだ。


そうです。ろざりあとあんじぇはとても仲良しでした。
だから、ろざりあはプレイボーイで有名なおすかー君が大事なお友だちに声をかけていたのにびっくりしたのです。

「ねえねえ、ろざりあ〜。あのひとせんぱいでしょう?おいてきちゃってよかったのかなぁ」
「まぁ!あんじぇったら。たとえせんぱいでも、しらないひとと、したしく口をきくことはいけないことよ」
そうなの?と首をかしげるあんじぇに、諭すようにろざりあは続けました。
「わたくしのじょうほうもうによれば、あのかたはゆうめいなぷれいぼーいだそうよ。
しんけんにおはなしをするあいてではありませんわ」
このお人よしの親友を悪ーい虫から守らねば!と、ろざりあ、こぶしに力が入ります。
おすかー君前途多難でございますね。 

でもあんじぇはおすかー君の顔が何故か忘れられなかったのです。
「すてきなかみのけのいろ。それにきれいな、おそらのいろのおめめだったし。なんだかふしぎなきもち。もっとおはなし、したかったな」
あんじぇには、ろざりあが言うほどおすかーせんぱいは悪い人には思えなかったのでした。


○月□日
 今日こそあんじぇと「おともだち」になってやるぜ!
 なにしろこのおれがほんきになったんだからな。ぜったいににがさないぜ!
 かえりがダメならおひるごはんだ!あんじぇといっしょに食べるぞ!

 
ランチは大きなホールでいただいたり、あるいは広く美しい庭園でいただいたりします。
おすかー君は11時半からさりげなく幼稚舎の建物の方をチェックしていて、あんじぇとろざりあがホールへ行くのを確かめておりました。
一年生の昼休みは11時40分からなので、チャイムの音と共に彼はホールへ向かって猛ダッシュいたしました。
あちこちから女の子達の声が掛かりますが、おすかー君、この時ばかりは挨拶もそこそこに通過いたしました。

 やっぱりおなじテーブルのせきをゲットしなくちゃいみがないよな。
 しかもとなりかしょうめんのせきだ。しょうめんがいいな。あんじぇのかわいいかおをみながらのおひるごはんなんてさいこうだぜ!

 あの子は広いホールのなかでもすぐにわかったぜ!あいのちからだな!
 きれいなきんぱつがどこからでもおれにはわかるぜ。


おすかー君は今日のランチをさっとお盆にのせてあんじぇの所へ一直線です。その素早い事!さすがはスポーツも万能。人やテーブルを巧みに避けつつ、けれど焦っている風情は微塵も感じさせません。さすが、でございますね。

そしてお目当てのあんじぇの座っているテーブルまでたどり着きました。

「やあ、おじょうちゃん、ここにすわってもいいかな?」
そう言ったときはもうすでに座っておりましたが、一応聞いてみるのが礼儀ですね。
あんじぇの正面の席を無事にゲットできておすかー君は大満足です。自然と笑いがこみ上げてまいりますが、あまりニヤニヤするのも良くないと思いさりげない微笑を意識しておりました。
「おれは一年生のおすかーだ。よろしくな!」
まずは名前を覚えてもらわなくてはなりません。基本中の基本です。

「こんにちは、あの…わたし、あんじぇです」
そのかわいい声におすかー君はふるふるしてしまいそうでした。
「ごきげんよう、おすかーせんぱい、ですわね?わたくしはろざりあですわ」
今度はドスのきいたろざりあの声がして、さすがのおすかー君も一瞬ドキリとしました。
いかにも「邪魔者が来た」というろざりあの表情でしたが、おすかー君はひるみません。

これでお友達になれたぞ、次は二人きりにならなくっちゃなと考えをめぐらすおすかー君。いかにしてこの、ろざりあを巻くかがポイントでしょう。でなければ次の段階へは進めませんね。

「今日もばしゃでかえるのかい?こうえんをとおっていっしょにかえらないか?きれいな花がさいていたぜ?」
じっとあんじぇの目をみつめながらおすかー君は言いました。
「え?きれいなお花?」
「そう。赤や黄色やピンク。まっしろいのもあったな」
あんじぇの気を引くことに成功したようです。もうひと押し!と思ったとき隣に人の気配がいたしました。

見上げるとりゅみえーる君が立っておりました。
「おすかー、いそいでいるとわすれものをいたしますよ?」
そう言うなり、おすかー君のお皿に何かを乗せました。

おすかー君は一瞬何が何だか解りませんでした。やっと視神経と脳細胞が繋がって…

「ぐ…ぐりんぴーすッ!!」
なんとおすかー君のハヤシライスに山盛りのグリンピースが乗せられていました。

「今日のハヤシライスにはトッピングがついていたのに、あなたはおいそぎのあまりおわすれになったようですね…」
にっこりと優しい笑みを浮かべてりゅみえーる君は続けます。
「グリンピースはとてもからだにおよろしいのですよ。たくさんいただきましょう」

 おれはじまんじゃないが、すききらいはない!にんじんだってピーマンだって食べられるぞ。でも、このグリンピースだけはダメなんだ!
 あのにおい!したざわり!どれをとってもにがてなんだ!
 じまんの赤いかみが、まっさおになっちまうぐらいきらいなんだよぉ!
 …それよりもショックだったのがそのかっこわるいすがたをかわいいあんじぇに見られちまったことなんだ。
 きっとあきれられただろうな…。だがまだおれはあきらめないぞ!


グリンピースと格闘する事に気を取られて、結局一緒に帰る約束を取り付けられなかったおすかー君は、再び帰る時間を見計らってあんじぇの所へ行こうと思いました。チャイムと共に再び走って幼稚舎の方へ向かったおすかー君の耳にあんじぇの可愛い声が聞こえました。階段の下にいる!と駆け下りようといたしました、が。

「うわわーーーっ!」
ガタガタ、ドタタ――――ッ!!
勢いがついていた分、盛大な音をたてておすかー君は階段を落ちてしまいました。
頭の上でチュピがくるくると回っているようでした。チュピというのは後輩の子が飼っている小鳥のことです。
おすかー君は何が起こったのかよく解りませんでした。ただ目の前に床が広がっておりました。
「いてて…」
むっくりと起き上がるとまたもやりゅみえーる君の声がしました。
「ろうかやかいだんをはしってはあぶないですよ…」
「おまえ!今、あしをひっかけただろう!」
確かに階段を降りようとした瞬間、何かが足に掛かったのでした。
「わたくしはせいかついいんですから、そういった、いはんは止めなくてはなりません。ですが、わざとあなたをおとすなんて…そんなひどいこと!」
りゅみえーる君はとても悲しそうな顔をしました。

おすかー君、思わずりゅみえーる君につかみかかろうとしたその瞬間、可愛い声がいたしました。
「あの…、だいじょうぶですか?」
はっと我に返りました。あんじぇがそこにいたのです。また格好の悪いところを見られたかと、おすかー君は泣きそうなくらいショックを受けてしまいました。

「これ、どうぞ…」
心持ち頬をそめて差し出された物は、かわいいウサギさん模様の入ったバンドエイドでした。
「?」
怪訝な顔のおすかー君にあんじぇは自分の鼻を指して言いました。
「ここ、おけがしてます」
慌てて自分の鼻を触ってみると、わずかに血が付いていました。どうやら擦りむいたようです。
「わたし、はってあげましょうか?」

あまりの嬉しさにおすかー君は頷くしか出来ません。さっきまでの地獄な気分が一気に天国まで舞い上がったようです。
間近にかわいいあんじぇの顔があるのです。白くて小さい手がおすかー君の頬に触れました。ふと二人の目が合いました。
おすかー君にはあんじぇの背中に真っ白くてキラキラ光る天使の羽根が見えました。
あんじぇもおすかー君を見つめていました。もう回りには何も見えなくなって二人だけの世界になっています。

「あの、ね。きょうはもうろざりあとおやくそくしちゃったんです。だから、え…とあしたいっしょにかえれます」

 おれはこの時じんせいでいちばんしあわせをかんじた。
 あんじぇと「おともだち」になれたんだ。あとはめいっぱい「なかよし」になるだけだ。
 いっしょにあそびにいったり、べんきょうしたり。そうだ、こんどのおまつりにさそおう。海へもいこう。たのしいことばかりだぜ。


おすかー君のうれしはずかしの想像は止まる所を知りません。もう目の中はお星様でキラキラといった感じでございます。

 しょうらいはきっとおれのおよめさんにするぞー!


── to be continued?

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