誠実な嘘

2001.7.6 ・◆・ 大庭美樹 




『永遠の愛を、君に捧げるよ』

 嘘つき、ね。
 「永遠」っていう言葉なんて、信じてないくせに。

『いつでも、いつまでも、俺の全ては君のものだ』

 それも、嘘。
 嬉しいけれど、とっても嬉しいんだけれど、私のどこかがそれは嘘だってわかってる。


 ううん――「嘘」というほど、嘘じゃない。
 あなたが本気で口にしてくれてることも、疑ったことなんかない。
 でもね、私、わかってる。
 同時に、「本当」と言えるほど真実でもないっていうことも。


 私、知ってるわ。
 あなたは情熱的な人だから、人にはロマンチストと思われているけれど、ほんとはすごくシビアな現実主義者だってこと。
 例え心が移ろうことがなくっても、必ずおしまいの日はやってくるものだって、あなたは知っている筈。
 それは明日かも知れない。 ずっとずっと遠い先のことかも知れない。そんなの誰にもわからない。だから今を思いきり生きる人なんだってこと、私はちゃんと知ってるわ。
 「永遠」を信じていないからこそ、だからこそそんなにも情熱的な人なんだって。
 だからこそ、今この時を大切に大切にしてるんだって。

 あなたの「全て」が私のためにあるわけじゃないことも、あなたも私も知っている。
 いつも個人としてのあなたでいられるわけじゃないことくらい、わからないほど子供じゃないわ。
 あなたには大事な役目があって、守護聖としてのあなたの忠誠は、まず何よりも女王陛下と宇宙に捧げられるべきもの。
 そうでなくちゃいけないし、そういうあなたを私も誇りに思ってる。
 遠い星への出張も、時には危険な任務につくこともあるけれど、あなたが一番お仕事できる人なんだから仕方がないわ。
 だから笑顔で送り出してあげる。
 あなたが守護聖であるように、私も補佐官なんだし、ね。


 そう――わかってる。
 命に限りがあるからこそ、人の営みは美しいって、あなたを通して私は知った。
 変わらないものなんてない。終わらないものなんてない。
 だから今を大事に生きるの。
 そしてちゃんと伝えたい。
 いつもいつもいつも、精一杯の愛を、あなたに。

 いつも独り占めにはできないけれど、あなたが還ってくるのは私のところ。それはちゃんとわかってる。
 だから両手を広げてあなたを待つの。
 守ってもらうだけじゃなく、自分の足できちんと立って、できればあなたのことも守れる私でありたいから。


 でも、それでも、私の心は約束の言葉を聞きたがる。
 変わらないものはないと知ってても、変わらないよと言って欲しい。
 それはほんとは私の弱さね。
 あなたはみんなわかってるのね。そうでしょう?

 自分でも信じていない永遠を、それでも誓ってくれるあなた。
 一番聞きたいその言葉。
 私のための、優しい、嘘。


 愛しているわ、オスカー。
 あなたも、あなたの優しい嘘も。

 …だけど許してなんかはあげないの。
 私のために言ってくれてるっていうのは、知ってるけれど。
 いつかやっぱり「嘘」だったんだとわかるのなんて、絶対絶対許してあげない。


 でも、そうね。
 死ぬまでずっと、つき通してくれたら許してあげる。
 これからずっと一生――ね?


・◆ FIN ◆・



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